<研究概要>

●はじめに

 当研究室は、平成23年4月から発足したフレッシュな研究室です。
教員2名と院1年生2名と4年生5名で、”変わった次元を持つ”固体材料の電気伝導性や磁気的性質を研究しています。試料は 有機化合物や無機化合物など多岐にわたり、新規化合物を目指して自ら合成する場合もあります。それらの試料の電気・磁気物性を、いろいろなデータを基に説明します(X線構造解析、電子状態計算、電気抵抗や磁化率の温度依存性、電子スピン共鳴や赤外分光など各種スペクトル)。なぜある物質はそのような機能を発現するのかを考えることで、まだ世の中にない新しい機能を実現するためにはどのような物質を開発したらよいか(物質設計)を明らかにしたいと考えています。我々と一緒に日夜物性を議論し、色々な研究手段と出会うことで、新しい自分の可能性や興味に出会えるかもしれません

<内藤教授からのメッセージ>

 我々の研究室では、「固体物理化学」という名の通り、主に固体を試料とする物理や化学的テーマを研究しています。固体というのは、物質を構成する分子や原子などがぎっしりと密に詰まった状況で、気体や液体とははっきりと異なった性質を示します。もはや構成成分である分子などは動き回る余地はないのですが、(不対)電子や分子の規則的な振動は固体の中をかなりの距離にわたって移動または伝搬していきます。これが磁性や(熱や電気の)伝導性、光学的性質など多くの物性を支配します。特に後に述べるような特殊な形状を持った物質や、温度、圧力などの条件を変えると、電子は想像もつかない挙動を取ることがあります。目に見えない小さな分子が天文学的数字の個数で集まった固体というのは、大きな謎と可能性を秘めた小宇宙です。そして新しい固体物質(材料)の発見は、石器時代、青銅器時代、鉄器時代など一時代の名前となるほど、人類の発展にとって画期的な出来事です。当研究室では、ある物質がなぜそのような物性を示すのか、またある物性を示す物質をどうやったら作れるかを、様々な実験的・理論的手段を用いて研究しています。

 ■ 異次元の世界の電子

 私たちが暮らしている世界は幅、奥行き、高さの三方向を持った三次元と言われる世界です。その中にはいろいろな形や大きさの物体が存在しますが、どれもすべて三次元の物体です。ところが次元には、フラクタル次元という別の考え方(定義)があります。これによれば、三次元的な立体図形でもその形状(凹凸や穴など)に応じていろいろな次元を取ります。単純に縦、横、高さが存在するという概念(三次元)ではなく、各物体の全体的な構造から細部の構造までを包括的に数値化した概念です。
 現在世界中で、原子数個分の厚さ(薄膜)や直径(細線や微粒子)を持った特殊な形状の材料がいろいろ開発され、それらは同じ化学式を持つ“普通のサイズ(mmやcm程度の大きさ)”の物質とはかなり異なる性質を示すことが明らかにされてきています。性質が異なる理由は、こうした物質内に居る電子にとっては、ある方向は極端に狭く、動きに制約が出るからです。従来は上述のような特殊な材料の次元を三次元に対し、近似的にそれぞれ二次元(薄膜)、一次元(細線)、零次元(微粒子)と呼んできました。
 我々の研究室では、こうした物質の形状と性質の一般的関係をより正確に明らかにするため、フラクタル次元の違いによって説明しようとしています。そのためにいろいろなフラクタル次元を持つ試料を作製し、その電気、磁気物性などを測定して、なぜそのような性質を示すのか、理論計算などで説明する研究を行っています。温度や圧力、また物質の種類などに加えて、次元というものが物性を制御する新たなパラメーターとしての可能性を持っています。それを証明するために、電子が異なる次元の世界(試料内)におかれた時、どう対応しているかを知りたいわけです。物性と構造の根源的関係を探ることになります。

 ■ 次元旅行から時間旅行へ
 上記の研究に関連して、少しずつ異なるフラクタル次元を持つ一連のサンプルの相転移を調べています。具体的には、酸化コバルトCoOなど無機化合物の磁性体の磁気転移の温度や転移前後の磁気的挙動です。フラクタル次元が異なると、こうした相転移に関する挙動も異なることが分かってきました。相転移とは、氷が解けて水になるように、ある温度や圧力などを境に突然磁性などの機能を失ったり、発現したりすることで、実用上も重要な現象です。試料のフラクタル次元を少しずつ変えることで、相転移の起こる温度を系統的に変えられることが分かってきました。
 それだけでなく、物質の中で相転移が始まって徐々に進行し完了するまでの一連の時間的経緯が、フラクタル次元の変化と対応するのではないかと考え、詳しく調べています。もしこの予想が正しければ、一連の系統的に異なるフラクタル次元を持つ試料を合成することで、(実際には一瞬にして終わることが多い)相転移の任意の瞬間を止めて調べたり、実際の時間的順番とは無関係に任意の順番で(対応する試料を)調べたり出来ます。つまり、次元旅行は時間旅行にもなるわけです。

 ■ 21世紀の錬金術
化学(chemistry)の語源は、錬金術(alchemy)です。その歴史は古く、他の自然科学の分野と同じく多くの先人たちの生活の知恵が一つの学問体系として、周辺分野と融合しながら確立されてきました。今では身近なものを混ぜて煮たり焼いたりして金(gold)を作れると信じている人はいないと思いますが、金属原子を全く使わずに金属を作ることはできます。特に炭素や窒素などからなる、地球上にふんだんにある安い材料から付加価値の高い金属(導電性)材料を作れるとすれば、それはお金(money)を作っているのかもしれません。この「21世紀の錬金術」ともいえる人工の金属(合成金属)に関する研究は日本で始まり、筑波大学名誉教授の白川英樹博士らが2000年にノーベル化学賞を取ったことでも知られる分野です。
 当研究室では硫黄やセレンなどを含む芳香族性の有機分子の電荷移動錯体を合成し、伝導性や磁性、光応答性などの絡んだ天然の金属にはない性質を実現したり、説明したるする研究を行っています。
 一見、これまで述べてきたのとは全く異なるテーマに見えますが、実は三次元以外(異次元)の世界に閉じ込められた電子が見せる非日常的な振る舞いという点で、関連しています。


 研究室沿革

2011年4月
内藤俊雄 教授が愛媛大学理学部教授に着任。固体物理化学研究室が設立。4年生3人が配属。
2012年4月
4年生3人が配属。
2012年9月
3人に加えて、筒井が配属。
2013年4月
山本貴 准教授が着任。4年生が6人配属。
2014年4月
院に進んだ2人に加え、4年生が5人配属。研究生が7人に。

バナースペース

固体物理化学研究室

〒790-8577
愛媛県松山市文京町2−5
愛媛大学 理工学研究科 環境機能科学専攻 分子科学講座
理学部本館 3階 335室